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高木敏克のブログです。


by alpaca

孤島にて

孤島にて

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灰色の海の彼方へ消えつつある記憶の中から船はやってくる。

老人は窓から外を見る。いったい、もう一つあるはずの灰色の海はどこにあるのか。

と、水平線を見たが青以外の何もない。恐ろしい青の深さだ。

「たしかに、わしは過去から目覚める。これは、若い時とは違う今の目覚め方だ」

そう思いながら、今度は潮風で曇りはじめた鏡を見る。

逆光を背負って影の中の自画像を確かめる。すると船も見える。

「明るいのは白髪だけだ。だから、この明るさは伸びるに任せるべきだ」

背中まで垂れさがる白馬のしっぽは少し黄色が入り、プラチナブロンドだから、

曲がり角のたびに孤独を選ぶ後ろ髪に花をさせる。

海は水平線までもりあがり、そこから風が吹いてくる。そして船は行く。

「わしの顔なんて、いやな記憶にする単なる蓋なんだ」

と、洗面台の蛍光灯をつけた。真っ黒な顔が現れた。

細かいしわが多すぎるのだが、それらはガラスの破片が無数に突き刺さった傷だ。

ガラス片は眼球にもキラキラと入り込み。左目はほとんど見えていない。

そしたら、斜視がどんどんと進んで左目だけが灯台を見るようになった。

「眼球に残ったガラス片はわしにしか見えない灯台だ。今日だって青い窓の外には白い灯台が見える。
いつだって、白い灯台に照らされている」

ふと、自分自身の笑顔に気付いて、老人は首を振った。

「いったい、誰のための笑顔なんだ」

すると、船は消える。

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by glykeria | 2018-01-29 17:20 | | Trackback | Comments(0)