孤島にて
2018年 01月 29日
孤島にて
灰色の海の彼方へ消えつつある記憶の中から船はやってくる。
老人は窓から外を見る。いったい、
と、水平線を見たが青以外の何もない。恐ろしい青の深さだ。
「たしかに、わしは過去から目覚める。これは、
そう思いながら、今度は潮風で曇りはじめた鏡を見る。
逆光を背負って影の中の自画像を確かめる。すると船も見える。
「明るいのは白髪だけだ。だから、
背中まで垂れさがる白馬のしっぽは少し黄色が入り、
曲がり角のたびに孤独を選ぶ後ろ髪に花をさせる。
海は水平線までもりあがり、そこから風が吹いてくる。
「わしの顔なんて、いやな記憶にする単なる蓋なんだ」
と、洗面台の蛍光灯をつけた。真っ黒な顔が現れた。
細かいしわが多すぎるのだが、
ガラス片は眼球にもキラキラと入り込み。
そしたら、
「眼球に残ったガラス片はわしにしか見えない灯台だ。
いつだって、
ふと、自分自身の笑顔に気付いて、老人は首を振った。
「いったい、誰のための笑顔なんだ」
すると、船は消える。